野球人口の減少。それが少子化を大きく上回るペースであることが問題で、その原因は多数あって複雑に絡んでいる。そんな野球界に対する、世間からのイメージは相当にマイナスの方向へ振れてしまっているようです。それでもなお、たくさんの選手が集まる学童チームもあります。一般的な親子からも「野球」が選ばれ、野球場に子どもたちが集まるようになるには、どうすればいいのでしょうか。メンタルコーチの立場と経験から、提言をしていきたいと思います。
[監修/諸星邦生]
vol.13
世の親子から「野球」が選ばれるためには
まずは、子どもの特殊性から踏み込でみましょう。どの時代にあっても、子どもには一定の共通した性質や行動パターンがあると思います。
では小学生たちは、どんな場所に集まるのでしょうか。集まりやすいのでしょうか。自分の時代も思い返して、考えてみてください。
●友だちがいる
●楽しそうなこと面白そうなことをやっている
●好きなことができる
おそらく、上記のような答えが最大公約数になってくると思います。
では、少し強引ですが、そこに「野球」を絡めて順にイメージしてみましょう。
❶友だちと野球をする
❷ボールを打ったり投げたり捕ったり、を楽しむことで笑顔になる(楽しい・面白い・好きになる)
❸笑顔のある場所に人が集まる
いかに、そういうサイクルや環境を確立するか。これが普及への大きなポイントではないかと私は考えています。
試合に勝つことや大会で何度も優勝しているとか、レベルが高いとか。現場に出てみると、そういう理由から集まる子どもというのは、実はそう多くないことがわかります。
もちろん、結果として勝利することや、野球レベルが上がることは当然あるでしょう。でも大前提として、「選手が楽しむことができる環境」にないチームには人が寄り付かなくなってきて、活動も存続も危ぶまれる。年々、この傾向が強まっているように感じます。
厳しくしなければ成長しない! 楽しいだけでは勝てない! それは大人の勝手な妄想です。スポーツをする子どもにとっての「厳しさ」の真実や概念は、当連載の第7回(➡こちら)でお伝えしました。「厳しさ」とは、大人が設定するものではなく、選手が自ずと感じるもの。小学生はそれだけで十分です。
どんなに楽しく野球をしていても遅かれ早かれ、試合中に大きなプレッシャーを感じる場面が必ず訪れます。また練習でも、同級生に後れを取ったり、なかなか思うようにできないなど、壁に当たることが必ずあります。それらを乗り越えられる選手を育てること、それこそが「育成」だと私は考えています。
世間一般のリサーチでは、「野球は練習が厳しい」「野球は練習が長い」というイメージが定着しているようです。
それを「野球は楽しい」「野球は面白い」へと変えていくためには、何が必要でしょうか。
強いチームは明るい!
私はメンタルコーチとして活動していますが、高校生や大学生にも「強いチームの共通点は明るさ」と伝えています。その「明るさ」とは、野球を楽しめるかどうかの度合い、と定義しています。
試合になれば、ピンチの状況もほぼ確実にやってきます。そのときに「ここでこうやって抑えたら、めっちゃすごいじゃん!」などのイメージを持つことで、成功させる楽しみが湧いてくる(セルフイメージ・セルフトーク)。そしてそのマインドが、実際に成功を呼び込むのです(可能性を高める)。
このように、前向きになれることが明るさである、と伝えています。練習時から、選手たちが前向きな気持ちで取り組めるように導くことが、指導者の大事な役目。大好きな野球を明るくできる環境にあれば、選手たちは表情も豊かになります。現にそういうチームには、自ずと人が集まっています。
学童野球は、プロ野球のミニチュア版ではありません。試合の結果や個人成績に応じて、報酬が発生するわけでもありませんね。
楽しめばこそ、子どもは成長するものです。ですから、「失敗やその怖さ」を大人が事前に教える必要はありません。楽しんでいる中でも、失敗も数えきれないほどするはずです。そこで自ら学習し、同じ失敗をしないように考えたり、工夫をしたり、努力をしたりすることが成長につながっていきます。指導者がそこに寄り添うことで、成長は加速することでしょう。
そういう環境であれば、保護者も安心して見ていられます。我が子を安心して預けることができます。また、選手の成長と保護者の安心感は、どんどん伝染しやすいという不思議(それとも必然?)な特性があります。
その結果、勝利を目指すこともできるでしょう。弱いままでいい、勝てなくてもいい、と端から開き直るマインドもまた考えものです。野球の外せない面白さのひとつに、勝負があります。勝つために求められるプレーがあり、勝つために何が必要かを選手が考えることも成長を促します。そういう意味でも、勝負を楽しめる選手を育てることもまた「育成」であると私は考えています。
勝つことも目指すが、負けも否定せずに過程を評価される。負けない人、勝ち続ける人など、いないのだということも経験から知る。そして、負けても前向きに取り組むことや、ミスを恐れずにプレーすることの大切さを悟る。指導者はそれらの答えを先に与えるのではなく、実体験とサポートを通じて子どもをそういう境地へと導いていく。
上記のようなチームは、いかがでしょうか。正解はひとつではありません。無数にあるはずですが、実際にそういう学童チームもあります。選手たちはプレーを楽しんでおり、保護者の多くも楽しみに週末の活動を迎えているようです。
指導者の人間性もカギ
学童野球チームの大半は、ほぼボランディアで成り立っていますね。各家庭からの会費は指導者の報酬になるわけではなく、道具や場所など活動経費に充てられるのみ。ここが学習塾やスイミングスクールなどの習い事と決定的に異なる点です。
したがって、練習の手伝いや試合の運営・審判、大会時の移動・運搬などは保護者の協力が必須となります。学校の部活動のように、我が子を預けっぱなしというわけにはいかないのも現実でしょう。
だからといって、指導者がふんぞりかえっていたら、保護者は良い気はしませんね。また子どもたちにとって、人として良き手本にもなりません。
謝意を伝えること、スケジュールやその急な変更などもできる限り速やかに知らせること。組織内で相談もしながら、年間の計画や目標を立ててそれに沿って活動していく。指導者のこうした配慮が、保護者との関係も良好なものとし、円滑な活動にもつながっていくと思います。
「ウチは昔からこのスタイルだから!」「強いチームはみんなやっている!」「最近の親はいちいち面倒くせえな!」…こういうことを平然と口にするような指導者は、さすがにもういないだろうと信じていますが…。
「本日は車出しをしていただきありがとうございました。無事に試合をすることができましたことを感謝いたします」
このように指導者から配慮の言葉があるだけでも、協力する保護者側の気持ちや温度感も変わるものです。できるだけマメに伝えることもポイントです。
「我々スタッフは、選手の成長を心から願って、工夫と努力を重ねています。また、保護者のみなさんのご協力に、心から感謝をしています」
適切なタイミングで、指導者がさらっとそれくらいを言える。きっと、そういうチームでは人が育ち、人が人を呼ぶことでしょう。
そしてそういうチームが、どこにでも当たり前にある未来となれば、世間一般から抱かれる野球のイメージも、大きくプラスの方向へ振れていることと思います。
[野球まなびラボ 理事]
もろほし・くにお●1978年生まれ、東京都出身。大田区の美原アテネスで野球を始め、6年時から硬式の大田リトル・シニアへ。東海大菅生高で3年夏に九番・左翼で甲子園2回戦まで進出、国際武道大で4年春にメンバー入り。卒業後は保健体育科の教諭となり、東海大菅生高コーチを経て千葉・我孫子二階堂高へ。硬式野球部の監督を20年務めて、2022年夏に(一社)野球まなびラボの理事に就任。ボールパーク柏の葉にて「体軸×野球教室」や「中3塾」を主宰するほか、出張指導やメンタル講座も。1男1女の父
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